2020年3月25日水曜日

熊本シティースタンダード(Tachikawa_Version)

熊本シティースタンダードと冠するのはおこがましく、OM諸氏からお怒りをいただくかもしれないが、イメージを手っ取り早くご理解いただけるかなと思い敢えて付けさせていただいた。
 熊本シティースタンダード(以下熊本標準)といっても、これをご存じの方はかなりのOMさんだと思う。1981年7月号のCQ Ham Radioに掲載されたJA6BI田縁OMの「モノバンドSSBトランシーバー」が自作Hamに広がるきっかけだろう。これに呼応して秋月電子で「KUMAMOTO STANDARD SSBジェネレーターボードキット」として販売された。これに挑戦されたOMも多いないのではないでしょうか。
 それまでSSBトランシーバーの自作は難しいものだと思っていたのが、一気に実現可能なものになったと思う。私もこのキットを購入して自作した一人である。昨今ちらほら再現されている方があるようだ。しかしながら当時入手できたパーツも時代とともにディスコンとなり、同じものを作るのは難しくなってきた。また、最近のSDR等高機能なものが主流となってきているが、やはりアナログの機械には愛着がある。そこで今回熊本標準を基本に現代版を作ってみようとスタートした。

【コンセプト】
 今回のプロジェクトの基本コンセプトは熊本シティースタンダードの現代版と位置づけている。従って基本構成は標準方式に準じている。これを現代版とするため
・現在国内で購入できるパーツを使用
・当時よりは少しは高性能にしたい
・基本はアナログ回路
このコンセプトに製作することとした。

【構成】
Block Diagram
左図に熊本標準とTachikawa_Versionのブロック比較を載せた。色付きの部分が主に変更しているところ。マイクアンプ、DBM、AGC、IF_AMP、Linear_AMP部分








【SSBジェネレーター】
Generator_Schematics
 受信部は、熊本標準では、中間周波増幅2段であるが、やはりAGCのダイナミックレンジ不足は否めなかったので、今回は3段とした。
 使用するFETは、熊本標準が3SK45であるが、今回は秋月で購入できる3SK294を使用した。このFETは3SK45のようなデプレッションタイプではなく、エンハンスメントタイプである。つまりG1のバイアスがプラス域となっている。
 クリスタルフィルタは、熊本標準では
Generator
CB機用のものが当時格安で入手出来ていたが、現在では特注となって非常に高価なものになる。今回は安価に入手できるクリスタルでラダー型フィルタを使用した。ラダー型フィルターに関してもJA6BI OMがHam Journalに詳しく解説されていたので自作派の方にはなじみ深いと思う。今回はサトー電気等で入手できる10.695MHzのクリスタルを選択し6段とした。
 AGCはIF出力コイルのホット側から取り出し、エミッタフォロワーを経由して検波し、1段目のオペアンプで直流増幅し、Sメーター出力を取り出すとともに2段目のオペアンプの反転入力に入れ、電圧オフセットを行いAGC出力としG2にかけている。尚、RFアンプにもAGCが掛けられるよう端子に出力している。
 3SK294は非常に高性能であるが、G1のバイアス調整が非常にクリティカルであるため、ボリュームで電圧調整できるようにし、中間周波増幅各段に供給するようにしている。また、AGCのダイナミックレンジを広くとりたいことから、かなり電流を多く流れるセッティングとしている。このことで受信時の消費電流が大きめとなってしまっている。移動運用等の電池駆動では少々つらいかもしれない。
 AFはお決まりのLM386で、NFBを掛けてノイズを抑えている。
 復調は、熊本標準ではダイオードDBMであるが、今回は秋月で購入できるNJM2594を使用した。このICはuPC1037H互換となっている。
 送信部は、マイクアンプとしてオペアンプを使用。これを受信と同じくNJM2594により変調をかけている。マイク入力レベルでひずまないようレベル調整が重要である。
 変調出力を2SK192で増幅しフィルターに入力している。
 NJM2594は、入力端子に電圧をかけることによりキャリアバランスをとることができるので、ボリュームで最低レベルとなるように調整する。データシートでは標準-40dBとなっており、一般的なレベルであるが、もう一息下げたいところである。
 キャリア発振は、熊本標準同等の回路である。水晶はフィルターと音字10.695MHzの推奨を使用。LSBの場合はフィルタより高い周波数なのでコンデンサーで簡単に調整できるが、USBの場合はフィルタ周波数より低くなるので、コイル等で少しVXO的にする必要がある。

【コンバーター】
Converter & Linear
今回は50MHzとした。構成は熊本標準とほぼ同等。
 周波数変換もダイオードDBMと同じ。これはジェネレーターから出てくる送信信号のレベルが高いため、NJM2594ではオーバー入力となるためである。
 RFアンプはIFと同様3SK294である。これはIFと同じAGCを使用するためであり、やはりG1のバイアスがクリティカルであるため半固定抵抗で調整している。
 送信リニアアンプには
Converter ,Linear,Counter
AFT05MS004NT1を採用した。このFETについてはこの前のBlogに掲載したものであり、非常に高性能なものである。+10dBm入力で5Wが期待できる。今回の構成では少しドライブが低いため、口笛MAXで3Wとなった。もう1段追加すれば5Wにすることができるが、無理に追加するまでもないと思い、このままとした。
出力にはお決まりのLPFを追加しスプリアス抑制をしている。

【VFO】
VXO_Schematics
VFOは、今どきはDDSかSi5351PLLと売るところであるが、熊本標準に倣って敢えてVXOで製作した。
 VXOに使用するクリスタルのみが入手しずらいものである。現在特注で製作できるところはアロー電子だけと思われる。
 幸いにもジャンク箱に13.2MHzのクリスタルがあったのでこれを3逓倍し39.5MHz付近としてIFと合成し50MHzを生成してい
VXO
る。基本波で発振させVXOとし、約30kHz可変とした。これ以上では自励発振に近づき安定度がすこぶる悪くなる。
可変範囲は50.16-50.27MHzとなった。概ねSSBバンドで使用できる。
 また、参考にZL2PD作のSi5351PLL(一部アレンジしているが)を使用したVFOの回路図を載せておいた。非常にコンパクトで、よくできており気に入ったものである。興味のある方は、氏の記事を参照願います。勿論拙作のarduinoVFOでもいい。(笑)

【製作】
 筐体はセッツ金属のSB-11(現行品)を使用した。しっかりした筐体でモンバンドトランシーバーには使い勝手が良いケースと思う。上下2段とし、下部にジェネレーターとVXO
、上段にコンバーター、リニア、リレー等を乗せた。
 また、今回周波数表示に秋月の周波数カウンターキットを使用した。このキットはIF周波数シフトがソフトで設定できるため、直読とするところがいい。ただ、基盤が少々大きいこと、7segLEDが大きくパネルに収まらないため、手持ちの小型LEDに変更した。詳細は秋月電子で調べていただくこととしてここでは、省略させていただく。
 試作なので各基板はユニバーサル基板を使用して製作した。できればプリント基板としたいところであるが、苦手である。
 主要部品購入先は、
  秋月電子 (FET,OPAMP、NJM2594、カウンターキット)
  サトー電気(クリスタル、FCZコイル)
  マルツ  (AFT05MS004NT1)

【使用感】
 今回のジェネレータは、3段IFであることから結構AGCダイナミックレンジが取れているため、聞きやすく仕上がった。また、内部ノイズも非常に小さくアンテナ入力を外すとAFボリュームを上げても気になるようなノイズ音はしない。今まで製作したものの中ではトップクラスである。
 送信はMAX 3W QRPとしてはちょうどよいかもしれない。ローカルにモニタしていただいたところ、以前製作したPSN送信機と比較すると、まあ普通の音とのこと。合格点はいただけるとのことであった。
 今回は熊本標準を意識したので、特殊なものは使わないこととしたが、現行パーツでそれなりに製作できたことは、非常に満足であった。
 やはりアナログは難しいし、面白い。40年近く前の回路であるが、現在でも自作派では標準ではないだろうか。デジタル器機では味わえない満足感を感じるのは、私だけではないと思う。敢えて熊本スタンダード(Tachikawa-Verion)としたことをお許しいただきたい。尚、Tachikawaとは私のHomeシティーのことです。

Let's enjoy homebrew.
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